対談集
Water talk

一滴の水で和菓子が変わる

和菓子作家 坂本 紫穗 × マザーウォーター 本井晃一 社長 対談

今回の対談のお相手は、「印象を和菓子に」をコンセプトにオーダーメードの和菓子制作や監修を行ない国内外で活躍する和菓子作家の坂本紫穂さん。
水は和菓子を作るうえではもちろん、日々の生活にも欠かせないもの。わたしたちの日常に馴染みすぎてなかなか意識を向けにくい「水」について、その良さ・面白さ・美味しさをどうしたらうまく伝えられるのか? どうしたら水に興味を持ってもらえるか? 
海外での和菓子作りに現地の水を使ったことがきっかけで水を意識するようになったという坂本さんと、マザーウォーター代表・本井晃一が語り合います。

取材日時:2024.9.30

本井晃一(以下・本井)
以前、和菓子を作るうえで水がとても大事だというお話をお聞きしました。それをいちばん体感したエピソードは何ですか?

坂本紫穂さん(以下・坂本):
海外でお仕事した時ですね。和菓子は日持ちがしないので基本的に現地で作るのですが、最初は水についてあまり考えておらず、現地の浄水を使えばいいと思っていました。でも試作をした時に寒天の色が濁ってしまったのです。いつも通りの配合で、いつも通りの手順で作っているのに、なぜか白く濁っていて。砂糖も寒天も持ち込んだものだし、鍋も同じものとなると残る原因は水しかないと思いミネラルウォーターを買って作ってみたのですが、またダメでした。そこで初めて「もしかして硬度なのでは?」と思いつき、軟水のミネラルウォーターを探して作ってみたら、やっと透明になりました。それが最初に水を意識したきっかけです。それからは海外出張の時はすごく気をつけて、行く先々の水情報を事前にリサーチするようになりました。

本井
やはり水は大事なんですね。そういう話を聞くと嬉しいです。国内ではそういった経験はありますか?

坂本:
国内はあまり地方に行っていないですが、水・気温・湿度で仕上がりや劣化のスピードが全然違うと思うことがあります。本来潤っているべき表面の乾燥が早いとか。あと離水ですね、気温が高くて寒天が緩くなり、水が出てきてしまうだとか。そういう問題が気候によっていろいろありますね。

本井
湿っぽい地域とカラッとしてる地域では作り方も変わってきますか?

坂本:
そうですね。土地ごとにそのお菓子ができあがった経緯もありますし、おそらくどの地域もそこの気候に合わせて最適な解を出しているはずなので。いくらレシピや材料が同じでも、その気候のなかで作るものと形だけ真似したものは、物質としては同じかもしれないですが意味は違う気がします。
東京でも、春と夏と秋と冬とではほんの少しですが水量を調整します。特にお干菓子は一滴の水の違いでまとまらなかったりベトベトになったり、かなり違いが出てしまうのです。お蕎麦を打つ人が天気や湿度を見て「今日はちょっと水多めにしよう」と、長年の経験値でコントロールするのと近い感覚かもしれません。

本井
地域にも紐づいているし、さらに職人さんの技にまで紐づいているから、東京で「○○地方の和菓子です」と出してもらった和菓子と、その土地まで行って食べるものではやはり少し違うんでしょうか。

坂本:
本当の意味ではそうだと思います。私は何事もご当地は特別だと思っています。だから、お水も現地で飲むのがいちばん贅沢で美味しいだろうなと思います。物質としては一緒なのでしょうけど。

本井
現地で汲みたての水と商品になってからの水、それぞれで作った和菓子の食べ比べとかやってみたいですね。

坂本:
是非やりたいですね。湧き水をただうっすら甘く寒天で固めただけの状態の味比べをしてみたいです。固形にすることで、液状の水よりもわかることがあるかもしれないです。

本井
例えば温泉水で作ったことはありますか? 硬度が高めだったり、硫黄分も入っていたりすると難しいでしょうか?

坂本:
それは作ったことがないですね。どうなるのでしょう……。でも、どんな結果が出ても楽しむという前提でやってみるのはいいですよね。そうやって遊びみたいに水の違いを楽しむという経験も何かしらの役に立つと思いますね。新しい発見があるかもしれませんし。

本井
すごく面白いですよね。

坂本:
みんなが毎日口にしている水ですから、知っておく価値はありますよね。

本井
大事ですよね。地方出身の方は「おばあちゃんちの井戸の水がいちばん美味しい」と言っていたりしますし。

坂本:
私も実家に帰ると毎回実家の水をがぶがぶ飲みます。体内の水を全部入れ替えたいの?というくらいの勢いで。不思議ですよね、身体が実家の水を求めている感じです。自分の身体の原点は実家の水だったのだと感じています。

本井
ああ嬉しい。この一言のためにやっていますね。「マザーウォーター」って、ふるさとの水を美味しいと思ってほしいなっていう意味もあるので。

坂本:
水という存在が日常すぎて、自分好みの水を見つけた人はまだ少ないかもしれませんね。でもきっと、それを見つけるのは楽しいことですよね。ついつい目の前の水を無意識に飲みがちなので。

本井
だからうちも日本全国のお水を飲み比べできる企画をやっていたことがあります。50種類近いお水を用意して、「AとBどっちの味が好きですか?」と聞きながらその人の好みを狭めていって、最終的に「あなたの好きなお水はコレです」と伝えるとすごく喜んでもらえるんです。

坂本:
面白いですね。人は誰でも自分自身を知りたいですよね。水を通して自分の好みやルーツを知るのは面白い方法だと思います。

本井
秩父出身の方に何も言わず秩父のほうの水を飲んでもらったら、その方「これ実家で飲んでた水道水みたい」って気づいたんです。なんとも言えない嬉しさがありますよね。やっている僕らも面白いし嬉しいし、それを感じ取れた本人もすごく喜んでいました。

坂本:
地方それぞれのお水に合わせた和菓子を作るのもいいかもしれませんね。ご当地水和菓子マップを作ったり。同じお菓子でもフレーバーや砂糖の量を微調整したりして。

本井
水を感じられるお菓子というと何がありますか?

坂本:
寒天系のお菓子ですね。それも水そのものを感じられるようにできるだけ味を薄く、質感も柔らかくぷるぷるの状態で。水をスプーンで食べるような感じにできたら美味しそう。

本井
とてもいいですね。

坂本:
いきなり「水源を守りましょう」と言われても、いきなりアクションを起こすのは難しいですよね。水源と言われても、なかなかイメージがわかないです。でも、目の前の水についてちょっと意識することはできますし、おそらく最初のきっかけになりますよね。そのきっかけを作るのに、和菓子に限らずお菓子というのはすごくフレンドリーな存在で、一つの入り口としていいのかなと思います。

本井
たしかに水よりもお菓子のほうが、みんなが好みやすいし入りやすいかもしれないです。

坂本:
「水で面白いことしてる」という取り組みが魅力的に見えるかもしれないですね。「この人たちは水で一体何をやってるんだろう」というくらい極端でマニアックなアイデアも面白そう。
水は飲むだけでなくほぼ全ての家事に使いますし、生活に馴染みすぎていて意識を向けにくい。だからこそ、楽しみながら関わることが大切なのかもしれません。

本井
「本当に違いがあるのかな?」って思われながらも、一方通行で発信していくのはいいかもしれないですね。

坂本:
「この土地の水にはこの和菓子ですよ」と、正解のようなものを伝えるのではなく、「水にも個性があって世の中にはきっとあなたに合うお水がありますよ」という目線をお知らせすることが大事なのかなと思いました。
そうして広めていけば水への意識や見る目が変わっていくはずで、コンビニで毎日なにげなくペットボトルの水を買っていたとしても、「そういえば隣に置いてあるこの水はどんな水なのだろう?」と思うきっかけになるかもしれません。水に関心を持ち、大事にする気持ちが育まれていくきっかけになるといいなと。

本井
たしかにそうですね。ありがとうございます、とても勉強になります。

坂本:
「水を楽しむ」という発想があれば、水を楽しめますよね。蛇口をひねれば出てくるし、コンビニでもどこでも買える。なので、皆さんの楽しみを増やすようなイメージで和菓子と水でなにかコンテンツにできたらいいなと思います。水の良さを、面白さを、美味しさを素直に伝えられたらいいですね。

和菓子作家

坂本 紫穗

「印象を和菓子に」をコンセプトにオーダーメードの和菓子を作品として制作・監修、日々のあらゆる印象を和菓子で表現し続ける和菓子作家。店舗は持たず国内外で和菓子教室やワークショップの開催、展示、レシピの開発を行っている。2021年、毎日放送『情熱大陸』出演。
Web: https://shiwon.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/shiwon.wagashi/
Facebook:https://www.facebook.com/wagashi.shiwon/

マザーウォーター株式会社 代表取締役

本井 晃一

大学卒業後、水処理エンジニアとして11年勤務。法人化前からボランティア活動として「国内天然水の効き水イベント」等を開催。水源各地を巡るなかでニッポンの水源の危機的状況を肌で感じ、2009年に会社設立。地場資本の小規模水工場の雇用確保、品質向上や安定操業への協力、経営安定化へ寄与する営業協力を行なう。

クリタのうまい水
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